約 220,418 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/83.html
<明日の為に、其の1!> 「これ以上戦えぬ者に手を出す気はありません、再戦を楽しみにしています。」 また今日もいつものように戦闘停止を申告し、結果的にはドローになる。 8戦やって0勝0敗8分、デビューしてから毎回この調子なのだ。 どうやら自分の趣味が彼女に変な価値観を植えつけてしまったらしい。 そもそも巷で大流行の武装神姫を購入する予定は一切無かった。 仕事で散々扱ってきたのに、病気で休職中の時まで見たくなかったのが正直な感想だ。 「リハビリ兼ねて、お前のボーナスは現物支給でコレだから。」 とは上司の台詞である。 本来は開発に携わった人物がバトルサービスに関わるのは好ましくないのだが、 神姫本体では無くバトルサービスのシステム開発部である事と、 ある種の市場調査を兼ねての特例との事らしい。 その際に都合良く休職中の自分に白羽の矢が立った訳だ。 こうして、我が家にフルチューンされたストラーフがやって来たのである。 正直、戦闘用フィールドばかりを手がけた為か、何から手をつけるのかすら知らない。 名称は事前に”エスト”として登録してもらっているので、とりあえず起動? 「はじめまして、今日からよろしくお願いします師匠。」 「おう、よろしく・・・って師匠!?」 「そのように呼称設定がなされておりますが、何か問題でも?」 「いえ、面倒なのでそのままで結構でございますです。」 面倒だからと初期設定を友人に任せるのは、余計に面倒な事態を引き起こすようだ。 起動から数時間、すっかりウ○ザードやト○ーズ閣下に感化されたようだ。 闘いの美学がどうとか、エレガントにとかブツブツ言いながら武装を選定している。 上司に渡されたカタログでスペックを確認してみるが、どうやらサード程度なら武装無しでも問題無いらしい。 某シューティングの1面で上上下下左右左右BAを使うようなものだろうか。 などと馬鹿な事を考えているうちに気に入った武装を発見したようだ。 自分の2倍弱程の長槍を満足気に振り回している。 「それって懐に入られると邪魔になりそうだな。」 「甘いですね師匠、ちゃんと中心で分割されて2本の槍になります。」 「それはそれは、無知で申し訳御座いませんねー。」 「だからお前は阿呆なのだ!」 いや、それ師匠と弟子の立場が逆だから。 「で、火器の類は見当たりませんがどうすんのさ?」 「そんなエレガントじゃない武器は必要ありません。」 言っても無駄なのを理解したので、残りのパーツで飛行ユニットをでっちあげて 勝手に護身用の銃器を仕込んでおいたのは別の話だ。 こんな調子でこれからやっていけるのだろうか。 師匠と弟子
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2362.html
ダゴンちゃん敗北す ダゴンちゃん戦記 オーナーの私がこう言っては何だが、ダゴンちゃんは強い。 今まで26戦26勝。 ぶっちゃけ無敵街道爆進中だ。 それもこれも、機械マニアの姉に改造してもらった装備のおかげ。 見た目こそ普通のマリーセレスだが、装甲防御と自動攻撃能力は現行神姫の最先端を行く性能だ。 下位の神姫はもとより中位の神姫も殆ど相手にならない。 強さを求めるオーナーにとっては、最上級の武装神姫だと言っても過言ではないはず。 「問題は。私が欲しかったのは、着せ替えして遊べる神姫だったって事かしら?」 ところがあのタコ、服には全く興味を示さないでやんの。 可愛いワンピも、豪華なドレスも、背徳的なゴシックも―――。 「服とかはいい、お前の罪を数えるのだ」 とか言って着てくれなかったし。 「あーあ。黙ってればすっごい可愛いんだけどなぁ、ダゴンちゃん」 人間で言ったら、100人中100人が美少女と評して止まないだろう容姿だ。 神姫は赤壁を初めとした、ごく一部を除いて美少女揃いなのだが、マリーセレスの魅力は頭一つ飛び出ていると私は思う。 カナン神話は水の豊穣神から名を貰ったダゴンちゃんは、数あるマリーセレスの中から選びぬいた特上美少女だ。 少なくともこの子以上に可愛い神姫を私は知らない。 親馬鹿じゃないわよ? ホントに可愛いんだから。 口さえ開かなきゃ。 あと変な事しなければ。 「はぁ。着てくれないと分っていても、買ってきてしまう可愛いオヨ服」 朝一でゲットした本日の購入物はスクールスタイル。 ブレザー一式と上に着るコート。 ソックスやローファ等も完備した、正に至上のコスチューム。 「ただいま~、ダゴンちゃん居る?」 ……。 玄関開けても返事は無い。 休日なので姉は寝ているのだろう。 あの姉、機械弄りは神懸っているが、それ以外のあらゆる才能を神に剥奪された一種のダメ人間だ。 料理一つまともに出来ないが、料理マシンを作って料理を作らせたらやたら美味かったのでムカついた。 まぁあの姉はいい。 毒にもならんが薬にもならん。 問題はダゴンちゃんだ。 アレは喩えるなら致死量をはるかに越えた猛毒だ。 はんどるびーけあふりーである。 そもそもあのタコ―――。 「べちゃり」 「―――うぎゃぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 何か今べちゃって!! べちゃって!! 首筋に何か落ちてきた!! へばりついた!! 「孤独を愛するあまり孤独死しそうでした~」 「やはり貴様かぁー!!」 首筋から吸着機でへばり付いてたダゴンちゃんを引っぺがして床に叩きつける。 乱暴とか言う無かれ。 コイツ、べちゃっとか床に張り付いて全然応えてないし。 「プルプル。私は悪いマリーセレスじゃないよ?」 「かなりギリギリ、グレーゾーンよ!!」 「寂しくて死ぬかと思たですし」 「兎ってガラ?」 「ダゴンちゃん触手です」 はいはい、そうでした。 クラゲ型かと勘違いしてたのは私ですよ。 「…いや、ほら。クラゲ可愛くない?」 「イマイチですかもー」 「可愛いと思うんだけどね」 水族館でクラゲの水槽前に一日居ても飽きないし。 「虚しい青春送てますのねー」 「虚しくないよクラゲ? いやほら、可愛いは正義じゃない!?」 「んー、微妙ですかもー」 そう言って壁にへばりつき、緩慢に登って行くダゴンちゃん。 「それではますたーも落ち着いた所で再会のハグを~」 「せんでいいわ!!」 天井から奇襲するのは敵相手だけにして欲しい。 「それより新しい服を勝って来―――」 「嫌(や)ですー」 「―――って早っ!!」 ぴゅーっと走り去るテンタクルス。 そんなに早く移動できたのか。 あと如何でもいいけど、壁から降りろ。 「ホントにあの子は仕方の無い」 だが、嫌がるものを無理強いさせるのもアレなので、姉さん起こして早めのお昼にするとしよう。 ◆ 「水の中は落ち着くですしー」 水中にたゆたい安息を得るダゴンちゃん。 神姫にとって水の張ってあるお風呂は格好のプールだ。 水中戦の練習からレジャーまでお手軽に楽しめる。 「ふわふわ。とってもいい気分ですかも」 まどろみの中で、自我が拡大してゆく。 「このまま世界征服とかできるかも知れぬです」 えらくすごい方向に拡大していた。 「でもめんどいですし、明日にするですよ」 そして早々に救われる世界。 ダゴンちゃんはゆらゆらと水中を漂う。 「このままますたーがお風呂に入って来るのを待つですねー」 武装神姫は大概そうだろうが、ダゴンちゃんも例に漏れずマスターが大好きである。 四六時中へばり付いていたい位だが、何故かマスターはへばりつくと絶叫して引っぺがしにかかる。 もしくはへばりつく前に阻止されるか、だ。 ならばへばりつくには如何したらいいか? 答えは一つ。 マスターの意識していない時に、有無を言わさずへばり付いてしまえばいいのだ。 「湯船に入ってきたらペッタリするですよー」 ワクワク楽しみ。 マスター大好き。 ダゴンちゃんに悪意は無い。 あるのはただ、(あらぬ方向に行き過ぎた)愛だけである。 「ふわふわポカポカ気持ちいいですし」 人肌の温かさは好きだ。 もっとマスターにペッタリしたい。 「早くますたー来ないかな?」 ぬくぬく。温か。 「そう言えば来月から海ステージ解禁ですねー」 陸地は水没したビル群の屋上のみと言う素敵ステージだ。 天海では冷遇がちな、空戦型神姫や水中型神姫にとっては待ち望んでいた戦場でもある。 「ますたー連れて行(い)てくれるでしょかー」 機会があれば件の海ステージで熱闘を繰り広げてもいい。 戦うのは特に好きでもないが、戦場の空気は好きなのだ。 あの、えも言われぬ緊張感はオーナーさんには分るまい。 「あー。でも最近はそうでも無いですかも」 ライドオンシステムとか有るらしいし。 「ますたーにライドオンしてもらうのもいいですかもー」 ぐつぐつ。 マスターと一心同体になるのは、何だか少し恥ずかしい。 「ほっぺ赤くなりそですよー」 水面から顔だけ出して、ぷしゅーと口から湯気吐くダゴンちゃん。 なんだかとっても身体が火照る。 「むにー、なんだか意識がもーろーとして来たかもですしー」 熱い。 水面がぐらぐら揺れている。 「もーだめ」 夢現(ゆめうつつ)の狭間で、ダゴンちゃんは自らの意識を手放した。 ◆ 「ぎゃぁーーーーーーーーーーーっ!! ダゴンちゃんがお風呂で煮えてるぅーーーーーーーーー!!」 湊の絶叫が貴宮家の風呂場に響き渡ったのはそれから一時間後だった。 対戦成績 引き摺りこむ深海聖堂:ダゴンちゃん。 VS姉ちゃん:はいぼく。設定温度50度は、既にお風呂じゃないとおもう。 ダゴンちゃん敗北す・完!! 貴宮家のお風呂は台所から遠隔操作で給湯、過熱ができます。 そして姉ちゃんは熱いお風呂が好き。 -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2162.html
ウサギのナミダ ACT 1-29 □ 結論から言うと、雪華とティアのバトルは、伝説になった。 別に、俺や高村、ティアと雪華がそう望んだわけではない。 これはある意味、雑誌記者の三枝さんの、俺に対する報復と見ている。 あのバトルから数日後、「バトルロンド・ダイジェスト」の記者である、三枝めぐみさんから、直接俺に電話があった。 どこから俺の電話番号を入手したのだろう? そう尋ねると、 「情報源に対する守秘義務があるので、答えられないわん♪」 と、はぐらかされた。 三枝さんという女性は、終始こんな風にふざけたような口調で話す。 三枝さんの用件は、先日の、ティアと雪華のバトルを記事にさせて欲しい、ということだった。 「その件は、最初に断ったはずですが」 「だから、直談判するために、電話したのよぅ」 三枝さんはとにかく記事にしたいということを熱っぽく語った。 だが俺は、頑として首を縦には振らなかった。 神姫風俗が大幅に縮小された今、自ら波風を立てることはない。 それに、高村たちにも影響があるかも知れない。 彼らは全国大会を控える身の上だ。変な噂を立てられて、迷惑をかけるかも知れない。 そういうことを説明した上で、とりつく島もなく断ったのだが。 三枝さんはめげなかった。毎日のように電話してきた。この記事に賭ける情熱は十分すぎるほどに伝わってきた。 そして、三枝さんはこう言った。 「だったら、記事を読んで判断して。 遠野くんが気に入らないところは直すようにするから。 直接会って話をしましょ」 俺は根負けした。 ある日、大学帰りの夕方に、大学近くの喫茶店で、三枝さんと待ち合わせた。 彼女から原稿のプリントアウトを受け取り、読む。 雪華の連載記事は、俺も読み続けてきた。それだけに、読み応えのある記事に仕上がっている。 あのふざけた口調で話す人物が書いたものとは思えないほどに。 だが、それでも俺は断るつもりだった。 読み終わった原稿を渡すと、三枝さんはがばっ、と俺に頭を下げた。 「ちょ、ちょっと、三枝さん……」 「お願い! 記事にさせて! 絶対いい記事にするから! 今回のバトルを記事にできなかったら、わたし、雑誌記者として一生後悔する! 次の号に載せるには、もう時間がないの! だからお願い!」 いつもふざけた口調の三枝さんが、このときばかりは真剣な声色だった。 「そう言われても……」 「あなたがどうしても直して欲しいところは、ちゃんと直す。何か条件があるなら、それも飲む。だから……」 「……高村と雪華は、承知してるんですか?」 それが一番気にかかるところだ。 彼らに迷惑はかけたくない。 「もちろん、了承済み。もうコメントももらってるわ」 俺は小さくため息をついた。 高村たちは、俺たちとバトルしたことで非難にさらされるようなことがあっても、大丈夫なのだろうか。 だが、あの雪華なら、たとえブーイングを浴びようとも、堂々としているような気はする。 彼らが了承しているなら、あとは俺の気持ち一つということか。 「……わかりました」 俺は渋々頷いた。 納得したわけではなく、単に俺が根負けしただけだった。 三枝さんは顔を上げると、きらきらと目を輝かせ、まわりの視線も関係なく、子供のようにはしゃいだ。 ……やっぱり断ればよかっただろうか。 それでも、記事の内容には条件を出した。 バトルを記事にする上で、神姫の名前が分からないのでは話にならないので、ティアの名前は記述を許可した。 バトルの写真も、ティアの顔は出してもいいことにした。 考えてもらいたい。 「神姫T」とか書かれ、顔に目隠しされた写真が掲載されては、よけいに怪しいというものではないか。 ただし、俺の顔と名前は一切出さないように言い含めた。 俺の素性がばれたら、日常生活が危うくなる可能性があるからだ。 もちろん、俺とティアのコメント取材には一切応じない。 高村たちのコメントでも、俺たちに対する具体的な記述については許可できない、と三枝さんに言った。 三枝さんはこれらの条件をあっさり飲んだ。 あとで修正版の原稿を送ってもらい、チェックしたが、約束は守られていた。 俺は少しだけ安心して、記事にOKを出した。 せめて、ティアが掲載されているバトロンダイジェストは買おう、と思った。 だが、俺は分かってなかった。 三枝さんが嘘をついている……いや、すべてを俺に話してなかったということに。 そのバトロンダイジェストの発売日。 俺は最新号を購入すべく、コンビニに立ち寄って、雑誌コーナーに足を向けた。 雑誌コーナーの棚を見て。 俺はひっくり返った。大真面目にその場ですっころんだ。 バトルロンド・ダイジェスト最新号は置いてあった。 その表紙。 雪華と……なんとティアが写っている。 しかも、あのバトルの後、泣いているティアを雪華が抱きしめているシーン……その写真だったのだ。 表紙には大きな文字でこう書かれている。 「特集:~ 絆 ~ 武装神姫はなんのために戦うのか?」 「……聞いてないぞ……?」 俺はうめく。 完全に不意打ちだった。 とりあえず雑誌棚から、バトロンダイジェストを一冊ひったくると、大急ぎで会計をすませた。 さすがに立ち読みする勇気はなかった。 コンビニの店員がいぶかしげに俺を見ていたような気がするが、一切無視した。 なお、バトロンダイジェストの隣には例のゴシップ誌が置いてあったが、すでに神姫がらみの記事は掲載されていない。 神姫風俗摘発の後に指導が入ったらしく、謝罪文まで掲載されていた。 大城が後に教えてくれた。 アパートに帰って、雑誌を開く。 最新号の巻中のカラーページが、表紙にあった特集にまるまる当てられていた。 三枝さんが俺に見せた原稿は、記事の三分の二程度。バトルの詳細な解説が主な内容だ。 残りの隠されていた部分は、試合後の様子である。泣きじゃくるティアと、敗北を認めた雪華。 あの時の様子が詳しく書かれている。 「うわあぁ……」 一緒に記事を見ていたティアが奇妙な声を上げた。 まあ、俺もそんな声を上げたいような気分だった。 俺に見せられなかった後半部は「武装神姫はなんのために戦うのか」という問題提起になっていた。 雪華は「マスターのために戦う」ことこそが、武装神姫としての本分であることをコメントしている。 「人は武装神姫を戦わせる。それは名声のため、お金のため、バトルの楽しさであるかも知れない。 戦わせる理由はマスターによって様々だ。 しかし、神姫にとって、戦う理由は皆同じだ。。マスターの望みを叶えるために戦っている。 もう一度振り返ってみて欲しい。 神姫は何を思い、なぜ戦うのか。 自分はなぜ、自分のパートナーを戦わせているのか、を」 記事はこう結ばれていた。 そして、その問いかけに答えるように、特集記事の後半は、神姫とマスターの絆を思い起こさせる、過去の名勝負のダイジェストが紹介されていた。 読み終わった俺は、速攻で三枝さんに電話をした。 もちろんクレームを入れるためだ。 しかし。 『あらん、君の要望は全部通してるわよん♪』 ……この間の真剣な口調はどこへやら。 また人を小馬鹿にしたような口調で煙に巻こうとする。 確かに、記事の内容は、俺の要望をすべて通したものだった。それは間違いないのだが。 「だけど、表紙に巻中特集なんて言ってなかったじゃないですか!」 『いつもの連載記事とも言ってないけどぉ?』 ……これが社会人の知恵という奴なのか。 こういうずるがしこいだけの大人にはなるまい。 『でもぉ、今回の特集、大反響なのよぅ♪ 朝から電話がひっきりなしにかかってきてね、編集者としては嬉しい悲鳴だわ♪』 それは、この間のバトルが公に、広く知れ渡ったことに他ならない。 「それが困るって言ってるんです! だいたい、クイーンに悪影響が出たら、どうするつもりなんですか!?」 『あ、それは大丈夫』 「は?」 『雪華も高村君も、別にかまわない、って言ってたわん♪』 ……余裕だな、クイーン。 『あ、また電話。今日のお姉さんは忙しいの。まったねぇん♪』 電話は一方的に切られた。 くそう。 確かに、記事の内容は好意的なわけだし、俺の要望も通っているから、前みたいに問題になることはないと思うが……。 三枝さんは、記事は大反響だ、と言っていた。 それが俺たちにどんな影響を及ぼすのか、想像もつかない。 眉間にしわを寄せて考えていたからだろうか。 ティアが少し心配そうな顔で俺を見上げている。 「心配するな。大したことじゃない……いままでに比べたらな」 俺はティアに少し笑いかける。 そうすると、ティアもほっとしたように微笑んだ。 そうだ、これでいい。 俺たちはもう、何も恐れることなどないんだ。 何があっても大丈夫だと、今は思えるようになった。 ところが、事態はいつも予想の斜め上を行く。 土曜日にゲームセンターに行くと、俺たちに対する態度は一変していた。 俺たちが店に入ると、いきなり取り囲まれた。 いままで俺たちを罵倒していた連中が、手のひらを返したように賞賛の言葉を口にする。 誰もが俺たちとの対戦を望み、サインまで求めてくる奴まで出てくる始末だった。 その人波をかき分けて、現れた神姫プレイヤーたちがいた。 彼らは『ハイスピードバニー』とのバトルをするために遠征にやってきたマスター達だった。 どうやって俺の正体を知ったのだろう。わざわざ俺たちのホームグラウンドであるこのゲームセンターまで探り当て、やってきたのだった。 大勢の客にバトルロンドのコーナーまで引きずられそうになり、俺は……逃げ出した。 ありえない、と思った。 いままで俺たちをさんざん苦しめておいて、雑誌に掲載された瞬間から態度を一八○度変えるなんて。 俺は軽い人間不信に陥った。 「……そういうわけで、呼びつけたりして、ごめん」 「仕方ないわ。ゲーセンじゃ、ゆっくり話もできないものね」 駅前のミスタードーナッツに駆け込んだ俺は、久住さんに電話をして、わざわざここまで来てもらった。 ゲーセンであんなことにならなければ、呼び出すこともなかったのに。 節操のない客達に恨みがましく思うのは、俺の心が狭いからだろうか。 それでも、久住さんが微笑んでくれているのが救いだった。 「久住さんには改めてお礼を言いたくて……ありがとう。何もかも、君のおかげだ」 「大したこと、してないわ」 いつか聞いた言葉を、久住さんはまた口にした。 「……エルゴの店長が何かしてくれたのね」 「ああ……詳しくは教えてくれなかったけど」 ふと思い出す。 エルゴの、日暮店長の言葉。 『菜々子ちゃんを救ってやってくれ』 あれはどういう意味なのだろう。 それを当の本人に聞いてみてもよかったのだが、目の前の久住さんからはそんな影など微塵も感じられない。 俺は尋ねる気をなくして、代わりにこう言った。 「今度、エルゴの店長にもお礼にいかなくちゃ。買い物もあるし」 「買い物? ティアに?」 「ああ。ティアのレッグパーツを改良するんだ。その部品を揃えにね」 そう。俺はティアの武装の改良を計画している。 雪華とのバトルでわかった、レッグパーツの限界値とティアの機動の最大値。 そして、新しい戦い方。 それらを含めて、レッグパーツをバージョンアップする。 そうすれば、ティアの戦いにはさらに大きな幅ができるだろう。 「ね、そのお買い物、わたしも一緒に行っていい?」 久住さんからの嬉しい申し出。 「……どうかな。ライバルに手の内を見せるのは」 「えー?」 「冗談だよ。久住さんさえよければ、一緒に行こう」 頬を膨らませた久住さんは、俺が承諾すると一転、にっこりと笑った。 女の子はずるいと思う。 こっちの必死の攻撃を、笑顔一つで無しにしてしまうのだから。 「しかし……ゲーセンがあんな状態だと、対戦で新装備が試せないな……」 「べつに、あのゲーセンにこだわってるわけじゃないんでしょう?」 「まあ、そうなんだけど……」 だからといって、全く知らないゲーセンに行くのははばかられる。 なおさら何が起きるか分からないからだ。 「だったら……近くていいところ知ってるけれど」 「え? どこ?」 「わたしのホームグランドのゲームセンター。どう?」 「なるほど……」 いいアイデアだった。 久住さん行きつけのゲーセンならば、おかしなところではないだろうから、安心だ。 久住さんも一緒に来てくれるなら、ミスティを相手に練習もお願いできる。 大城たちが来ないのも、都合がいい。 「今度、案内してくれるかな」 「もちろん、いつでも」 久住さんはまた反則な笑顔を見せる。 俺はそんな彼女を眩しく見つめた。 ふと、久住さんは少し真顔になって、俺に尋ねた。 「でも、バトルに随分熱心ね。何かあるの?」 「ああ……約束があるんだ」 「約束……?」 そう、約束だ。 俺たちをバトルロンドに引き留めた、虎実との約束。 レッグパーツの改良をそれに間に合わせたい。 大きな障害を乗り越えてきた俺たちの今を見せることで、虎実の思いに報いたいと考えている。 「ふうん、虎実がそんなことをね……」 「そのためというわけじゃないけど、戦いの幅は広げておきたい。虎実も相当パワーアップしているだろうから」 「ねえ、もし虎実と対戦することになったら、わたしも観に行っていい?」 「もちろん。それに、それまでの練習相手をお願いしたいんだけど」 「……ライバルに手の内を見せてもいいの?」 「まいったな……勘弁してくれ」 俺と久住さんは笑いあった。 こうして笑っていられるのも、目の前の人を筆頭に、様々な人の支えがあったからだ。 今の自分たちは孤独ではないと、身に染みて思う。 俺はテーブルの上を見る。 俺と久住さん同様、ティアとミスティも穏やかに笑いあっている。 俺はそんな神姫たちの姿に目を細めた。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2104.html
ウサギのナミダ ACT 1-2 ■ 休みの日、マスターは朝早く起き、天気が良ければ近くの公園まで散歩に連れていってくれる。 わたしはこの朝の散歩が大好きだ。 ぴんとはりつめたように澄んだ空気、ひんやりと頬をなでる風、そして蒼く遠い空。 世界はこんなにも広く、きれいなのだと実感できるから。 そして、いつもは厳しい表情のマスターも、このときは少し優しい表情で一緒にいてくれるから。 わたしは、マスターの上着の胸ポケットから顔を出し、朝の世界を眩しく見つめた。 マスターの住まいから歩いて五分ほどで、目的の公園に到着する。 マスターによれば、この界隈では一番広いのだそうだ。 公園内は遊歩道が整備されており、昼間は散歩する人や、走り回る子供たち、のんびりと歩むご老人のみなさんなどがやってくる憩いの場だという。 わたしもジョギングをする人を見たことがある。 でも、日曜日の早朝は、たいてい誰もいない。 今日も人影はなく、わたしたちだけが公園内へと入っていく。 わたしは、マスターを見上げ、 「マスター」 声をかけた。 マスターがわたしを見つめる。 この人の視線はいつも厳しく感じられるけれど、いつもまっすぐだ。 わたしは小首を傾げるようにして、おそるおそるマスターを見た。 するとマスターは口元だけかすかに笑ってくれた。 「よし、行け」 マスターの許可が出た。 わたしは思わず笑顔になり、マスターの胸ポケットから飛び出した。 わたしの身長の何倍もの高さから、空中に躍り出る。 こわがらず、そのまま着地。 膝のクッションを効かせて、着地の衝撃を吸収する。 衝撃を完全に吸収してくれたのは、わたしに両脚に装着されたレッグパーツ。 マスターが作ってくれた、わたしのオリジナル武装だ。 わたしは、身体が沈み込んだ反動を利用して、前方に飛び出す。 レッグパーツのホイールが甲高い唸りを上げる。 わたしは腕を振ってバランスを取る。 一気に加速し、疾走を開始する。 風になる。 ここからはわたしの大好きな時間。 遊歩道を走る、疾る。 思うさま疾駆する。 ものすごい勢いで流れていく公園の木々。 風に溶けていくような感覚。 なんともいえない解放感がわたしを包む。 それは何度感じても、嬉しくて気持ちのいいものだった。 公園を囲む遊歩道の二つ目の角が見えた。 わたしはそこで体を起こし、スピードを落としながら一八○度ターンをする。 簡単なトリックだけど、きれいに決まったのが嬉しい。 わたしはまた前傾姿勢で走り出す。 わたしの大好きな時間の最後には、マスターが待っていた。 左の肘を水平に突き出して立っている。 瞳はわたしに不敵な視線を送っている。 これは課題だ。 神姫のわたしにマスターが出題するパズル。 わたしは、あのマスターの左肘に着地しなくてはならない。 先週は、マスターがベンチに座っていたから、難易度が上がっている。 わたしはスピードを落とさずにマスターへと駆け寄る。 そして走りながら、マスターの肘へと至るルートを見定める。 最後の数メートルを滑走し、タイミングを計ってジャンプ! わたしは、マスターの肘の先にあった公園の植木に飛びつくと、木の幹にホイールを走らせて、巻き付くように登り出す。 一気にマスターの肘の上まで登ると、そこでまたジャンプ。 着地点を見定めながら、一回転一回捻り。 回転を終えた瞬間、わたしはすとん、とマスターの肘の上にお尻から着地して座った。 「よし、上出来だ」 わたしのトリックプレイに、マスターは素っ気ない口調で、そう言った。 わたしは、さっきよりも和らいだマスターの表情を見つけて、やっぱり嬉しくなった。 にこりと笑顔をマスターに贈り、わたしは再びマスターの胸ポケットに滑り込んだ。 わたしの大好きな時間はこれでおわり。 でも、マスターの住まいに帰るまでの間、嬉しさでいっぱいになったわたしの胸はずっと高鳴っていた。 □ 散歩が終わり、朝食を食べて一休みしたら、俺は最寄りの駅前にあるゲーセンにティアを連れて向かった。 ティアをバトルにデビューさせて二ヶ月が経つ。 週末はずっとこんな感じで、散歩のあとでゲームセンターに足を運んでいる。 武装神姫のバトルは、公式の神姫センターや神姫を扱っているホビーショップなどでも楽しむことができるが、俺はもっぱら近場のゲーセンだった。 足を運びやすいのが一番の理由である。 もう一つはティアの武装だ。 ティアのレッグパーツは、俺が部品を集めたり作ったりして組み上げたオリジナルだ。 公式武装がメインの神姫センターは出入りしにくい。 雑多な神姫達が集まるゲームセンターの方が都合がいいのだ。 まだ昼前の時間帯で、ゲームセンターの武装神姫用筐体の周りもあまり賑わっていない。 その方が都合がいい。 むしろそれを狙って、少し早い時間帯に来ているのだ。 俺は対戦用の筐体に座ると、ティアをポッドに収め、サイドボードに武装を並べる。 ここでのバトルは、基本的にコンピューターを介したバーチャルバトルである。 俺はステージを「廃墟」に固定し、一人用のミッションモードを開始する。 コンピューターの出す課題を次々にクリアしていくこのモードは、一人でもバトルができるが、訓練に過ぎない。 俺はティアに細かく指示を出しながら、黙々とミッションを消化した。 つまりはこうして対戦者を待っているのだ。 対戦者待ちをするのには理由がある。 ティアの戦闘スタイルの特性上、市街戦しか有効に戦えないのだ。 つまり、ステージを固定するために、乱入者を待っている。 ……そう思っている間に、早速乱入者がやってきた。 三戦ほどやって、負けたところで席を立つ。 今日はいずれも地上戦メインの神姫とのバトルだった。 よく手合わせをする、顔見知りの常連さん達だ。 負けを喫したのは、バッフェバニー・タイプ。 あの神姫はティアよりも火力がある上に、機動性能もいい。ミリタリーファンに好まれる神姫だけに、市街戦での戦術は見事だった。 俺は神姫バトルを映し出す大型モニターを眺めながら、缶コーヒーを開けた。 「ティア。今のバトル、何が問題だった?」 俺は胸ポケットから顔を出すティアに尋ねる。 負けた後は、必ずこうしてバトルの検討をする。 俺たちは決して強いわけではない。 オリジナルのバトルスタイルを確立するため、細かく検討する必要があるのだ。 「えと……相手がビルにうまく隠れて、なかなか攻撃できませんでした」 「そうだな。市街戦の腕前も相手の方が上手だった。位置取りがうまかった」 「あ、あと、相手の攻撃にさらされることが多かったと思います」 「……こっちの行動パターンが研究されているかな」 「かもしれません……前に戦ったときとは違うタイミングや方向から攻撃を受けたような……」 バッフェバニーは銃火器による攻撃がメインだから、ティアは狙いをはずすような機動を心がけて戦うことになる。 ビルの壁や屋根も縦横無尽に駆け回るティアを、幾度と無く捕捉できるというのは、やはり行動パターンが読まれているのか……。 「いよう、遠野! 調子はどうだ!?」 人の思考を大声でぶちこわして現れたのは、革ジャンを着た派手な男だった。 「……大城、もう少し声を抑えてくれ。それでも聞こえるから」 「おお、うるさかったか? そりゃすまん、わっはっは」 なおのことうるさくしゃべるこの男は、大城大介。 以前バトルしたティグリース・タイプのオーナーだ。 おそらくは今も外に駐車してあるだろう、ごっついバイクを乗り回し、神姫にもエアバイク型のメカに乗せている。 シルバーのアクセサリーをこれでもかと身につけ、派手な柄のシャツに革ジャンという出で立ちは、どこからどう見てもヤンキーである。 バトルの後、難癖付けてきた大城を言い負かしたのだが、なぜか次に会ったときにはやたら気さくに声をかけてきた。 それ以来、俺の姿を見つけては声をかけてくるようになった。 俺たちのどこが気に入ったのだろうか。 それは目下、俺にとって最大の謎であった。 「……そっちは、来たばかりか?」 「おう。虎実のマシンの整備に手間取ってなぁ」 大城の肩を見ると、そこに彼の神姫・虎実が座って、こちらを睨みつけていた。 「……よお、虎実」 声をかけると、ぷい、とそっぽを向いた。 俺は小さく肩をすくめる。 虎実はいつもこんな調子だった。オーナーの大城の態度とは正反対だ。 「悪いな。こいつもほんとは照れてるだけなんだ」 「ばっ……! 照れてなんかいねぇ! 慣れ合うのがイヤなんだよっ!」 ムキになって否定するが、大城はせせら笑っている。 大城がからかい、虎実はさらにムキになる。 この漫才は、とうとう頭に来た虎実がクローを装備し、大城の顔をひっかくまで続くのだ。 ゲームセンターに通うようになって、俺の生活も変わった。 こうして神姫のオーナーたちと一緒に過ごす時間は、いままでの俺の生活にはなかった。 武装神姫を始めなければ、大城などとは一生会うことも話をすることもなかったかもしれない。 そう思うと、神姫はただバトルをするだけの存在ではなく、オーナーたちの枠を広げ、知らない世界を見せてくれる存在なのだと実感する。 「おっ?」 虎実にひっかかれ、顔中をミミズ腫れにした大城が、ゲーセンの入り口に注目した。 「遠野、あそこ見ろよ」 そこには一人の少女がいた。 大城は女の子に目がないので、妙にめざといのはいつものことだ。 だが、大城が注目するのも無理ないと思わせるほど、その少女は美人だった。 ショートカットにした髪と細いジーパンという装いのせいか、活発そうな印象だ。 手には、神姫収納用のアタッシュケースを下げている。 彼女はきょろきょろと店内を見回している。 「神姫のオーナーか……?」 俺が呟く。 すると、その声が聞こえたかのように、少女はこちらを見た。 視線が合う。 すると、少女はまっすぐこちらへやってきた。 隣で大城がなにやら喜んでいるような気配がするが、あえて無視した。 「こんにちは」 とても気さくな挨拶が、微笑みとともにすっと入り込んできた。 「こんにちは!」 「誰かお探しですか」 大城の挨拶が終わるのを待たずに、俺は本題を切りだした。 すると、彼女はちょっと驚いた顔になったが、すぐに落ち着いて、こう言った。 「ええ。……ハイスピードバニーのティアっていうオリジナルの神姫をご存じですか? このゲーセンがホームグランドだって聞いたんですけど」 俺と大城は顔を見合わせた。 「ハイスピードバニー?」 「はい。なんでも地上戦専用の高機動タイプで、バニーガールの姿をしているとか。とても 特徴的な戦い方をすると噂に聞いています」 「……それで名前がティアなら、俺の神姫かもしれないけれど……」 「ほんとですか!?」 このショートカットの美少女は声を上げて、にっこりと笑った。 ほとんど反則な笑顔だ。 「よかったぁ。会えないと大変なんですよ。何度も通わなくちゃいけないし」 「しかし、ハイスピードバニー?」 彼女が口にした呼び名だ。 そんなベタな名乗りを上げたことはないはずだが……。 「この近辺では有名ですよ。みんなハイスピードバニーという二つ名で呼んでますね」 俺は苦い顔をした。 あまり目立たないように戦ってきたつもりだったが、やはり特徴的な戦闘スタイルが目に付くのか。 しかも、二つ名まであるのか。 そんな心配と同じくらい、ひねりのないネーミングに不愉快になる。 「それで、君はわざわざ、ティアと戦いに来たというわけ?」 「はい。遠征して、いろいろなタイプの神姫と戦うのが好きなんです」 この少女は、迷い無くはきはきと答える。 年の頃は、俺と同じか少し下くらいだろうか。 武装神姫のプレイヤーにはとても見えない。 テニスか何かをやっていると言われた方がよほど現実味があった。 「バトルしてもらえませんか? 私の神姫と」 「君の神姫は……」 「ここよ、ここ」 小さな声がしたのは、彼女の肩あたり。 いつのまにか、一体の神姫が、少女の右肩に座っていた。 特徴的な巻き髪を揺らしながら、にこにこと笑っている。 「イーダ・タイプか……」 イーダ・タイプは高機動タイプのトライク型だ。 地上戦専門の神姫だし、確かにティアとは噛み合うだろう。 だが、本体がイーダ・タイプだからと言って、武装までそうだとは限らない。 「ミスティよ。よろしくね」 神姫は自らそう名乗った。 それを聞いた大城がいきなり叫びだした。 「イーダのミスティと言えば! もしかして、エトランゼ!?」 「……まあ、そんな呼ばれ方もしてますね」 「エトランゼ?」 俺は大城の方を向いて尋ねた。 すると、大城は大きなため息をついて、俺を見る。 「遠野、おまえは俺よりも神姫に詳しいくせに、なんで他のプレイヤーや噂には疎いんだ……」 失敬な。雑誌に出るようなプレイヤーたちなら俺だってチェックしてる。 大城はまたひとつため息をつきながら、俺に解説してくれた。 「『異邦人(エトランゼ)』のミスティと言えば、この沿線あたりじゃ有名な神姫だぜ。 噂になっているような強い神姫を相手にするために、あちこちのゲーセンやホビーショップの対戦台に現れる凄腕の神姫プレイヤー。 腕前もかなりのものらしい。それなりの腕の神姫をあっさり負かしたりするそうだ。 で、その神姫のマスターは、結構な美少女って噂だけど……」 大城はちらりとミスティのマスターを見た。 「噂通りってとこだなぁ」 彼女は困ったように笑っている。 「それで、あなたの神姫は? 今日は連れてきてないですか?」 「いや……ティア」 俺がそっと促すと、胸ポケットから、ティアがおずおずと顔をのぞかせた。 「わぁ、かわいい!」 少女は身を屈めて、俺の胸ポケットをのぞき込む。 ティアは恥ずかしいのか、半分顔をポケットの縁で隠しながら挨拶した。 「こ……こんにちは……」 「こんにちは」 返事を受けて、ティアはますます顔を隠してしまった。 「ティアは照れ屋さんなのかな?」 「ああ、ちょっと人見知りでね」 「噂通り、うさ耳なんですね。かわいいなぁ」 少女は無邪気に笑う。 なんだか、この笑顔に調子を狂わされっぱなしだ。 「それで、どうですか?」 「え?」 「私のミスティとバトルです」 「ああ……」 無邪気な笑顔とバトルという言葉に違和感を感じて、俺は少し戸惑う。 だが、断る理由がない。名の知れた、しかも地上型とのバトルなら歓迎だ。 「ティア、どうだ? やれるか?」 「マスターが……戦いたいというのなら」 俺は頷くと、少女に向き直った。 「フィールドは、廃墟か市街地。それでもいいかな?」 「望むところです」 そう言って、少女はにっこりと笑い、空いている筐体に歩み寄った。 俺も筐体の反対側へと移動する。 まばらだったギャラリーが、少しずつ俺たちの座る筐体の前に集まりだした。 まだ始まってもいないバトルにギャラリーがつく。 彼女の知名度と、俺たちの注目度は、俺が思っている以上のものであるらしい。 筐体のサイドボードに武装を並べ、バトルの準備をしていると、脇に大城がやってきた。 「なんだ、大城? 彼女の側で見てなくていいのか」 「おまえの次に、俺が対戦申し込むんだよ。おまえの戦略、しっかり見せてもらうからな」 すごみのある笑い。 なるほど、俺から戦略を盗もうという寸法か。 「だったら、一つ教えてくれ」 「おう、なんだ?」 「ミスティは地上型か、それとも違うタイプか。知っているか?」 「噂じゃ、普通のイーダだって話だな。 バトルを見た訳じゃないから、本当のところはわからんが、イーダのくせに、飛行型の神姫もあっさり倒すんだそうだ」 「本当か?」 「まあ、噂だがな」 大城は肩をすくめた。 その噂が本当だとしたら、ミスティは相当な実力の持ち主だ。 地上型の神姫が、飛行型の神姫から勝利を奪うのは難しい。自分より上にいるというだけで有利なのだ。 それをあっさり覆すということは、何か特別な力がある可能性が高い。 それが装備なのか、戦術なのか、策略なのかはわからないが…… 用心に越したことはない。 俺はそう判断する。 筐体の向こうを見てみれば、ミスティのマスターと目があった。 不敵な微笑み。 バトルに向かうにふさわしい表情になった。 なるほど、彼女も確かに神姫プレイヤーなのだ。 それでは始めよう。 俺はティアをアクセスポッドに送り込み、スタートボタンを押した。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/686.html
「クイントスの理由」 「おかえりセロ・・・大会は楽しめたかい?」 そういって、二ヶ月ぶりに帰ってきた親友に話しかける私 「かなりの刺激になった。私もまだまだ未熟だということが良く判ったよ、キャロ」 マントを外しながら座る蒼い鎧姿。彼女の指定席は神姫の箱が並ぶ棚の真正面だ 「相変わらず自分に厳しいんだから・・・アンタは」 「いや・・・完全にコピーされた自分の技を見れば、厭でも謙虚になるさ」 「『ミラー・オブ・オーデアル』・・・だっけ?」 「あぁ、凄まじい強さだった」 マントを受け取り、ハンガーに掛ける 「良い闘い」について語る彼女を見る事が既に久しぶりだった もとよりこんな田舎のリーグの女王に収まっている様な器ではない 「・・・まだ、私と闘ってはくれないか?」 そうだ、彼女をここに縛り付けているのは私なのだ 「・・・最近の槙縞ランカーの動向さ。見るかい?」 聞こえない振りをして、最近のランキングのデータを渡す。我ながら下手糞で、強引な話題のすり替えだ 不承不承、データに目を通す。その表情には落胆は無いが、歓喜も無い感じだ 「『ウインダム』が順位を落としている様だが・・・成程、装備を丸ごと取り替えたのだな。慣らし運転と言った所か。『リフォー』は少しは腕を上げたのかな?」 「・・・新人が3人か『ヌル』『G』と・・・これは・・・カスミと読むのか?」 頷く私 「厳密に言うと『G』は新人じゃないがな。『メイ』が改名・・・というか登録名を変更したんだ」 「『メイ』?岡田さんの所の、あの気の弱い限定版アーンヴァルだったと記憶しているが・・・?こんなに力があったのか」 「こいつは・・・凄いな、殆ど一気に6位に駆け上がっている」 「闘ってみたい・・・って?」 「・・・その『問い』に対する私の答えは常に一つだ、キャロ」 「『私は闘いを望むパーソナリティだ』?」 彼女の口癖・・・その前半分 「『中でも特にキャロ、お前との再戦を望んでいる』だ」 一瞬 駄々をこねる子供の様な表情が、『完璧な女王』の顔に浮かぶ 「何度も言わせるんじゃないよ。あれは私の力じゃないし、アンタはこんな所で燻ってていい戦士じゃない・・・私の事なんて忘れて、とっととファーストにでも何にでも昇格しちまいなよ。また大きい大会があるんだろ?」 「鳳凰カップ・・・か」 2035年から始まった鳳条院グループ主催の武装神姫バトルカップだ。武装神姫の公式大会としては、冬に行われるファースト選出全国大会・・・つまりこの間まで彼女が出場していた大会より、ある意味大きなタイトルだ 「アンタより強い奴なんていくらでも居るさ。中には必ず、アンタの願望を満たしてくれる神姫も居る」 「私がお前と、きちんとした形でもう一度闘いたいという願望は・・・お前にしか満たしえないだろう?」 「・・・私は・・・もう闘いたくはないのさ・・・」 「嘘だッ!」 俯く私にぴしゃりと反応する 「私は女王で居たい訳じゃない・・・私は戦士で居たい。お前だって本当はその筈だ・・・!私には・・・判る・・・」 「・・・」 肩をつかまれ、揺さぶられる。真正面から彼女の顔を見つめることが出来ない 「戦士で居たいというなら私が相手になるわよ?『クイントス』」 入り口あたりからかかった声に振り向く・・・ランカー9位『ジルベノウ』。背負った二本の折りたたみ式実砲とジャンプ戦術が特徴のストラーフ 「貴女の望み通り、引き摺り下ろしてあげるわ。女王の座からね」 「・・・いいだろう、君の挑戦、受けよう」 私は、ツイてる 殆どこの店に来ない上に、滅多な事では闘わないといわれる『クイントス』と勝負が出来るなど (フッ!噂の女王の力、どれ程の物か見せてもらおうじゃないの) 実質、データを見た限りでは『ジルベノウ』と『リフォー』の差は大したものでも無い。今は9位に甘んじているが、それはチャンスが無かっただけの筈。ここで『クイントス』を倒して一気にポイントもランクも稼がせて貰おう 「『ジルベノウ』、準備はいい?」 『イエス、マスター』 種々の非公式パーツで強化した「サバーカ」、リアユニットに「チーグル」の代わりに装備した射撃向きの大型腕とキャノン、それらを装備したジルベノウの戦力は、決して『クイントス』に遅れを取らない自信があった 『バトル・スタート』 機械的なアナウンス、同時に跳躍するジルベノウ (『クイントス』は・・・?) フィールドの真ん中で突っ立っているだけだ・・・こちらの出方を伺っているのか?馬鹿め、砲撃で粉砕してやる 「ジルベノウ、ファイアー!!」 爆音、火を吹くキャノン。狙いたがわず、砲弾は真っ直ぐ『クイントス』へ向かう・・・何故か動く様子の無い『クイントス』 (粉々だ!) だが、そこには粉砕された鎧の残骸すらなく、傷一つ無く刀を構えた姿で『クイントス』は健在だ (バリヤか?しかしそういった形跡は無いが・・・) 『くっ!おのれ』 もう一度発砲するジルベノウ 回避しておらず、バリヤでもない・・・ないという事は・・・? 『・・・今度はこちらの番だな・・・』 呟き、走り始める『クイントス』・・・速い、が、一般のサイフォスの域を出るものではない。今度こそ砲弾の餌食だ 迫る砲弾、『クイントス』は それを事も無げに「切り裂いた」 「な・・・!?」 即座にキャノンを畳み、手持ちの機銃を発砲するジルベノウ・・・濃紺のマントにいくつもの弾痕が刻まれる・・・? マントだけ・・・? 『アーンヴァルの様に無限に飛んでいられる訳では無い様だな』 跳躍の最頂点を過ぎ、落下するジルベノウの背中側に跳び、刀を振り下ろす・・・例え改造刀であってもジルベノウの装甲はそうそう容易に切り裂けるものではない ない筈なのに・・・ ジルベノウの装甲が砕け散る。凄まじい鋭さで切断された面の周りから、粉砕されてゆく 一撃だったらしい・・・らしいというのは、私には『クイントス』の剣閃が見えなかったからだ たった一撃刀を打ち込まれただけで、まるで超高速の戦闘機同士が衝突したような無残な姿に、ジルベノウはなっていた 『勝者クイントス』がコールされるまで、私はジルベノウが負けた事にすら気付いていなかった 私は・・・ツイてたんじゃなかったのか? すごすごと帰ってゆく主従を、セロは無表情に見つめていた いつも通りの、どこか取っ付き辛い硬さのある『クイントス』として 「アドバイスはしてやらないのかい?」 「・・・した。聞こえていたかどうかは判らないがな。ただ・・・」 「ただ?」 「本当に強い者ならば、私が何も言わなくても勝手に強くなるし、どうしようもない者には何を言っても無駄だ」 「手厳しいね、ホントに」 「かもな・・・。だが強くて妬まれるのならば、悪い気はしない」 その正直さ、飾らなさが、私の好きな彼女だ 「戦いを望む性状を否定しない・・・良くも悪くも、それが偽らざる私という人格なのだ」 そしてそれが、彼女の足を止めている 自らに嘘をつけない事、私と・・・否、『G』(注)を纏った私ともう一度闘いたいと願う余りに 私の好きな彼女の部分が、私の好きな彼女の翼に枷を嵌めている・・・ 「ままならないもんさね・・・」 私は二本目の煙草に火をつけた 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ 注.ランカー6位の『G』=『メイ』のGでは無い・・・が、全くの無関係でもない
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1349.html
{文化祭って、こんなだったけ?} 「う~ん…」 「何か悩み事ですか?」 「あはっ、アニキの奴が悩んでるよ」 「欲求不満ならあたしが解消してあげましょうか?」 「お兄ちゃん…話してくれれば相談に乗りますよ」 俺が悩んでいると机に居た神姫達が寄ってきた。 嬉しい事だが、多分言っても無駄だと思う。 何故ならばとうとう来てしまったのだ、この招待券が…。 封をされていて中身が見えないけど、俺は一発で解った。 だってこの茶封筒の表紙だけで想像出来たからだ。 表紙に書かれてあった文字を読むと俺の母校だった。 そして高校だったら何処もかしこも必ず一年間に一回あるという行事。 代表的な名前で例をあげるのなら『文化祭』だな。 今日の朝、俺が新聞を取りにポストに行ったらポストの中に余計な物が一つ入っていた。 それは俺が高校生の時に通ってた我が母校の文化祭の招待券である。 こんな茶封筒をポストにブッこんだ奴は一人しかいない。 婪だ。 奴に間違いない。 何故すぐに断定が出来るか簡単な理由だ。 今年で三度目だからである。 一度目は俺もまだ高校三年生だったから行ったけど、卒業後の二度目は行ってない。 文化祭は楽しいが時間が経つにつれ、ダンダンと怠くなる感覚が嫌で嫌でどうしようもなかった。 だから二度目は行かなかった。 あの時の婪は少し可哀相だったなぁ。 俺が文化祭に来なかった事で、婪は文化祭が終わった後に俺の家に入って来て。 「え~ん!なんで、来てくれなかったのー!!」 俺に抱き着きながら泣いてしまった、という過去がある。 あの時は大変だった。 兎に角、婪を慰めようと優しく何度も頭を撫でてあげたんだっけ? まぁともかく大変だった。 今年で婪も最後の文化祭。 本来なら後輩思いの先輩として行くべきなのかもしれない。 でも行きたくないんだよなぁ。 多分、行けば婪の奴が『これがあたしの彼氏よー!』とか言いそうで…。 ほんでもって周りに居る在学の生徒達が。 『うお!?マジかよ!』とか『婪さんの彼氏だってー!』とか言われそうだ。 マジ、勘弁してほしい。 ただでさえ、俺と婪はあの学校で有名なんだから。 喧嘩屋だったこの俺と学校で一番のアイドル、婪。 学校に行けば野次馬共が来るに決まっている。 それだけはなんとか回避したい。 でも行かないと婪にまた押しかけられて泣かれるのは嫌だ。 まったくどうしてこんな事になっちまったんだ…。 「はぁ~…。どうしよう」 「ご主人様、神奈河高等学校ってご主人様が通ってた学校じゃないですか。しかも招待券つき」 「…ん?ちょっ!おま!?なに勝手に封を開けてんだよ!しかもなんで俺の母校って知ってるだ!?」 「だって、この紙に書いてありますよ」 「はぁあ!?ちょっと貸せ!」 アンジェラスから紙を取り上げるて内容を見ると。 『先輩へ。こんにちは、先輩。明日は先輩が卒業した神奈河学校の文化祭です。暇があったら来てください。といいますか、絶対来てください!じゃないとアタシ、泣いちゃいますよ。去年みたく、いいえ、更に凄い行動にでちゃいますから!!という訳で明日楽しみにしていますね。同封に招待券を入れときます。婪より』 おいおい。 ほとんど脅迫状だぞ。 これ。 「しかてねぇー…行くか」 そう言って俺は明日の外行きようの服の胸ポケットに招待券を入れてベットで寝た。 …。 ……。 ………。 翌日。 俺は愛車を運転し、我が母校に向かっていた。 勿論アンジェラス達も一緒。 空は晴天、俺の気分は極上的に斜め。 まったくどうして文化祭当日を日曜日にするかな。 魂胆は少しでも客を入れたい、そんな感じだろーよ。 「ご主人様、ご主人様」 「ん、なんだ?」 「文化祭って楽しいのですか?」 「…文化祭かぁ」 チラッとアンジェラスの方向を見るとクリナーレ、ルーナ、パルカも真剣な眼差しで俺の方を見ていた。 …あぁー、なるほど。 こいつ等はデータとして文化祭がどのようなモノか分かっていても、体験してないからイマイチ分からないかもしれない。 だから文化祭を体験済みの俺に聞いてきたんだろう。 ぶっちゃけた話し、文化祭は楽しいけど七割は怠い。 正直、つまらない&金の無駄遣い。 …俺的にはだよ、あくまでも俺的に。 だから俺の感想をストレートに言ってコイツ等の落胆した顔なんか見たくないし。 ここは少し花を持たして話すかぁ。 「楽しいぜ。飲食店なら、かき氷屋、フランクフルト屋、焼きそば屋、タコ焼き屋、わたあめ屋、じゃがバター屋。イベント系なら、お化け屋敷、占い屋、射的屋、輪投げ屋、水風船、メイド喫茶。お前等の場合、飲食店なんか一つの店だけで腹一杯になるんじゃないか?」 「楽しそうですね」 「ボク、お化け屋敷に行きたーい」 「あたしはメイド喫茶」 「私は射的と輪投げかな」 みんなそれぞれ行きたい所があるみたいだ。 う~ん、金の方は一応多めに五万円持って来たし大丈夫だろ。 おっと、学校が見えてきたぜ。 車は路駐で大丈夫かな…。 まぁそんなに長くいないからちょっとぐらいなら。 停める場所は正門近くでいいだろ。 キキィ 「よし、着いたぞ。お前等」 「「「「はい!」」」 車からおりてキーのボタンを押しロックをかける。 これでよし。 「そんじゃブラブラしま、ゴファ!?」 「センパーイ!来てくれたんですね!!嬉しいです!!!」 いきなり背中に衝撃がきた。 何が起きたかと思い振り返ると。 「なっ!?婪!」 「はーい、そうでーす!」 背中に体当たりをブチかました奴は婪だった。 …しかも黒と白のメイド服を着てるし。 まぁ婪の事だから、メイド服は予測出来た。 つーかさぁ。 「婪!テメェ、体当たりとはいい度胸してるじゃねーか!!」 「エェー!?酷いですよ、先輩!体当たりじゃなくて抱き着きです!!」 「うんな訳あるか。…お~イテー」 婪が離れたので背中を右手で摩る。 結構痛かった。 「大丈夫ですか?ご主人様」 「大丈夫だ。で、婪はこんな所で何してるんだ?服装からしてメイド喫茶だと思うけど」 「先輩を待ってるついでに呼び込みしてたの」 「呼び込みか。繁盛してるか?」 「はい!それより先輩、こんな所で立ち話もなんですから早く学校行きましょ」 「それもそうだな」 こして俺は一年ぶりの高校に来た。 …。 ……。 ………。 婪からもらった招待券を正門で受付してる人に渡し校内に入る。 学校のグラウンドには、それぞれのクラスが屋台を出し商売していた。 この頃は気楽で色々と楽しかったなぁ、と思いふける。 喧嘩ばっかやってきた俺でも、それなりにスクールライフを楽しんでいた訳だ。 俺流のな。 普通の人にはお勧めできないけどね。 まぁ、それは置いといて。 「おい、婪」 「はい?」 「いつまで俺の腕に抱きついてるつもりだ」 そう。 婪は俺の左腕に自分の右腕を絡ませて、俺の肩に婪の頭を添えるようにしている。 これじゃあ何処からどうみても恋人同士がやることだ。 因みにアンジェラスとクリナーレは俺の頭の上にいて、ルーナとパルカ右肩にいる。 しかも四人とも羨ましそうな顔して。 そして一番嫌なのは。 『男性版』 「おい、あれ見ろよ」 「あれって婪先輩だよな。男の奴は誰だ?」 「お前知らないのかよ。あの男はこの学校最悪不良学生ベスト3に入る喧嘩屋の人だよ」 「マジかよ!?でも何で婪先輩はそんな男に抱きついてるんだ?」 「なんでも、あの男と婪先輩は幼馴染らしいよ。唯一暴力や暴言を振るわれない、と聞くぜ」 「えぇー!?じゃあ男の婪先輩と付き合ってるということは!?」 「バカ!声が大きい!!」 「ワッ、ごめん!…でも、婪先輩のファン倶楽部が黙っちゃいないじゃないか?」 「多分な。もし酷い事になったら血の雨が降るぞ」 「俺、この事を他の友達に知らせてくる!」 「おう、任せたぞ!」 『女性版』 「ねぇねぇ、あれ見てよ」 「あの人ってうちの学校の一番アイドルの婪先輩じゃない」 「よく見てよ」 「よく?…キャー!婪先輩が物凄い嬉しそうな顔で男の人に抱きついてる!!」 「そうなのよ。しかも相手の男の人はここの卒業生らしいよ」 「うちらの学校の卒業生?マジで??」 「マジよ。しかも噂じゃー相当なワルって聞いてるわ」 「じゃあ婪先輩の好きな人って不良系の人が好きなの!?」 「違うわよ。あの人とは幼馴染らしいのよ」 「幼馴染…ねぇ。それまた凄い話ね」 「でも婪先輩って男の人じゃん。だからー…」 「もしかして…ホモ?」 「可能性はあるわね」 「キャー、どうしよー!これはスクープよ!!皆に知らせてくるわね!!!」 「うん!頼むよ!!」 などなど、そこらじゅうで飛び交う会話が俺の耳にバンバン入ってくる。 マジでイラつく。 ここにいる奴等を全員シめてやろうか。 いや、それは駄目だ。 折角の文化祭に期待を膨らまして楽しもうとしている四人の神姫達や婪がいるんだ。 俺の勝手な行動でこいつ等の思い出をブチ壊すのは回避したい。 ここは我慢だ、俺! 「なぁ婪。まずこいつ等に文化祭がどのようなものか教えてやりたいんだ。だから少し時間くれるか?」 「別にいいですよ。それに先輩の頼みごとですし、断るわけないじゃないですか」 「サンキュー」 「でも、この腕は離しませんよ」 …マジですか。 はぁーまぁいいや。 「アンジェラス、クリナーレ、ルーナ、パルカ。何やりたい?金はそれなりに持って来たから、この学校でやっている店はほぼ全部出来るぞ」 「私はいいです」 「ボク、お化け屋敷に行きたーい」 「あたしは婪様のメイド喫茶」 「私は射的と輪投げ」 「そういえば車の中でそんな事言ってたな。そんじゃ行くか」 こうして俺はこいつ等の言う通りに目的の場所に向かった。 まずはクリナーレのお化け屋敷。 店内に入り、少し歩いたら。 「うらめしや~」 まぁ、いつもどうりの展開でオバケが出てくるのだが。 「はぁあ?なんだお前??殴られたいの!?」 ボカ! …あのさぁ、クリナーレ。 『殴られたいの』と言っといて殴るのは人として…神姫としてどうかと思うぞ。 そんな感じで店内を歩くにつれ怪我人が続出させたクリナーレは入場不可という事になった。 当たり前だ。 因みに本人の感想は『結構楽しかったよ。また来たいなぁ』だってさぁ~。 どうせ人を殴る事が出来たからだろうよ。 次はパルカの射的と輪投げ。 神姫だから人間サイズの銃を持つ事が出来なくて、補助係として俺が片手で持って照準と引き金はパルカがやることになった。 「お兄ちゃん、ちょっと銃身を下に下げて」 「こうか?」 「そこでストップ!う~んこの角度じゃあまだいまいちです。お兄ちゃん、今度は右に7度傾けて」 こんな風に誘導されながら俺はパルカの指示に従った。 そしてパルカ的にはベストポジションが決まったのか、引き金に腕を伸ばして。 バン! 撃った。 弾は見事に景品に命中したが倒れはしなかった。 まぁ大抵倒れないように景品を押さえるつっかえ棒とかあるに決まっている。 そこで景品が倒れない事にパルカが。 「やっぱりこんな銃じゃ駄目です。ここは自前で持ってきた銃で…」 「ゲッ!?パルカ、お前いつのまにそんな物持ってきたんだよ!」 「エーイ!」 バン! ボーン! …景品はボロボロに吹っ飛び跡形も無くなった。 当たり前だ。 違法改造武器の銃で撃ったのだから。 パルカは景品を破壊した事によって『お兄ちゃんー!ごめんなさーい!!』と泣きながら胸に飛び込みワンワンと泣いてしまった。 俺はパルカを慰めた後に射的屋をやっている生徒達に『景品の値段はいくらだ?』と聞き、それ相応の値段を払った。 射的屋の事件は丸く収まったが、このままじゃあパルカの思い出が悲しい思い出になっちまう。 だから俺は輪投げ屋に連れて行きパルカにやらした。 最初は元気が無いパルカだったが、輪投げをやっているうちに楽しくなってきたのか。 最後は笑って『楽しかったです』と言ってくれた。 これならいい思い出になったろう。 そして次はルーナの番なのだが…。 …。 ……。 ………。 「先輩、早く入りましょ~よ」 「う~んでもなぁ」 「ダーリン、行きましょう」 婪が俺の左腕を引っ張り、ルーナが右腕を引っ張る。 行きたくない訳じゃないんだが、なーんか嫌な予感がしてどうしようもないんだよなぁ。 こ~…、なんて言えばいいかな? 背筋に悪寒が走る? こんな感じに言えば伝わるかな。 いや、伝わりにくいだろうな。 「解ったから、引っ張るなって!HA☆NA☆SE!!」 グイグイ、と俺の両腕を引っ張る婪とルーナ。 肩にいるパルカや頭に上に乗ってるクリナーレとアンジェラスは羨ましそうな顔つきで俺を見ている。 そんな顔をしていないで、少しは助けてほしい。 こうして俺は二人によってメイド喫茶の教室に入る事になってしまった。 「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様!!!!!」」」」」 婪と同じ服を着たメイドがお出迎えしてくれた。 …よかった、婪みたいな男女みたいな奴等じゃなくて、ちゃんとした女の子達だった。 「キャー!天薙先輩じゃないですか!!しかも愛しの婪ちゃんと腕を絡めさせちゃって!!!」 「ホントだー!結婚式はいつですか!?」 「もしかして、もうヤっちゃっいました?」 こっ!? こいつ等! なんて事を口走りやがる! これは早く弁解しないと! 「結婚式はアタシが学校を卒業してから。エッチなことは多少やったけど本番はまだヤってないかなぁ」 ちょと待てー!? 誤解を招く発言をするなー! 「ち、違う!俺と婪はただの幼馴染で先輩後輩の関係だ!!エッチもしていない!!!」 すぐに弁解したが、時既に遅し。 メイド達は俺と婪の関係で持ちきりだった。 この女達も婪つながりで俺が三年生の時に何度か会ったことがあるので、俺のことを知っている。 婪のクラスメートだったな、確か。 こいつ等が一年生の時は俺にビビっていたのに、すっかり俺と婪の関係を知ってらこんな調子でビビる所か、すっかりBL話に花を咲かすようになってしまった。 あぁ~…俺の威厳がぁ~崩れてゆく~…。 「さぁ先輩はあちらの席でゆっくりしていてくださいね。アタシは仕事に戻るので。ルーナちゃんも先輩と同じ席ね」 「は~い」 「…はぁ~、解かったよ」 婪は俺から離れ、笑顔のまま仕事場の方に行く。 そしてクラス女子と一緒にワキャワキャと話す。 内容は…。 いや、ここは聞かない方がいいかもしれない。 多分、俺と婪の関係の話に決まっているからだ。 「ダーリン」 「ん?あ、ワリィワリィ」 ダラダラの状態で婪が指定した席に座る。 あ~ダリィ~。 ヒソヒソ ん? なにやら他の席に座ってる奴等からヒソヒソ話が聞こえるぞ。 ちょっと耳をすまして聞いてみるか。 『男性版』 「あれがあの喧嘩屋の天薙だってよ」 「ほんとかぁ~?なんだかえらく噂と違うぞ」 「でももう一つの噂は本当みたいだったな」 「もう一つの噂?」 「なんでも、この学校の一番のアイドル、婪の彼氏らしいぜ」 「マジかよ」 『女性版』 「婪さんと何処までいったのかしら?」 「さぁ?でもかなり良い所までいったらしいよ」 「どこまで?聞かせて~」 「一緒にベットで寝た所まで、という所まで聞いたわ」 「キャ~、婪さん大胆!」 …あ~、もういいです。 勝手にそっち系の話で盛り上がってください。 ここまで噂が広まってるのなら、怒る気力もなくなる。 「御待たせしました、ご主人様。ご注文をどうぞ」 満面の営業スマイルで注文をとりにきた婪。 仕事は真面目にやってるつもりだな。 俺は婪が置いたお冷を飲みながら品物が載っているメニュー見ようとした。 「今ならご主人様だけ、特別にアタシの身体を使った御奉仕つきですが。どうしますか?」 「ブゥー!?!?」 「ヤダー、ダーリン汚い~」 婪の衝撃の言葉に思わず口に含んだ水を吐き出す。 そしたらすぐに婪が持っていた、おしぼりで俺が吐き出した水を素早く拭く。 前言撤回! 真面目に働いていねぇー! 「…俺はコーラとルーナにバナナパヘェを頼む」 「はい、畏まりました。コーラとバナナパヘェ!藍!!錬!!!」 「「はーい!」」 二人の若い女の子の声が聞こえた。 すると。 「な!?武装神姫!?!?」 そう。 コーラとバナナパヘェを持って来たのは犬型ハウリンと猫型マオチャオだったのだ。 犬型ハウリンはコーラを、猫型マオチャオはバナナパヘェを持ってきて、婪に渡した。 「ご注文の品です、ご主人様」 「…あ、おう」 「どうですか、ご主人様?アタシの可愛い武装神姫達は」 「アタシのって…お前の武装神姫なのか!?」 「はい、前にも話したようにアタシも武装神姫をやっているんです。ご主人様が始める前にね」 マジかよ。 いや、そういえば前の朝に俺を起こしに来た時に言ってたなぁ。 そうか、あれが婪の神姫。 俺は犬型ハウリンの方を指で摘みマジマジと見てみた。 「何処触ってるのよ!エッチ!!」 ボグ! 「アガッ!?」 右頬に蹴りを決められた。 神姫のくせに喧嘩売られた!? 「こら、藍!アタシの先輩になって事するの!!」 「で、でもマスター。こいつ、私の胸を掴んで」 「まぁ!なんて羨ましい!!先輩、アタシの胸も掴んで!!!」 「ダーリン、あたしも~」 …もう何が何やら。 婪の神姫からは蹴りをもらうは、婪の奴は浮かれてるし、教室の中や外は野次馬で凄い人数でいるし。 なんかドッと疲れたなぁ。 つか、帰りたい。 …。 ……。 ………。 「もう帰っちゃうんですか?先輩??」 「あぁ。今日はそれなりに楽しめたからなぁ」 あれからメイド喫茶は凄い事になっていた。 内容は口にしない。 ていうか言いたくない、断じて。 俺の愚痴が原稿用紙100枚分に相当するからだ。 そして今は外に出ていて愛車の目の前に居る。 今日は、大半は楽しいというより疲れる事が多かったけど。 まぁ、これはこれでヨシとしよう。 「もうちょっと遊んでいけばいいのに」 「そうしたいのは山々なんだけどな」 俺は右手の親指である方向を示した。 「正門がどうかしたの?」 「テメェの目玉は節穴か?あの野次馬がウザイから帰る理由でもある」 婪は正門の方をよく見ると少し苦笑いした。 俺と婪の事が気になって追いかけて来た野次馬達がいっぱいだ。 「…あはは。確かにアレはちょっと」 「だろ。それにこいつらも遊び過ぎて寝ちゃったし」 俺の頭の上で寝るクリナーレとパルカ。 肩にはルーナを背中におぶっているアンジェラス。 アンジェラスの奴は殆ど遊んでおらず、ただ見ているだけの事が多かったため元気はまだありそうだ。 「そんじゃーな。次はバトルでもしようぜ」 「先輩のエッチ!」 「はぁっ?」 「ベットの上でアタシと先輩が激しくバトルエッチするんなんて!過激です~!!」 「…頼むからそうい発言は控えてくれ。萎えるし…だいたい俺は武装神姫のバトルの方を言ったんだ」 「あれ、そうなの?」 「そうなの!はぁ~、疲れた。じゃあ、俺は帰るぜ」 「来年は一緒にお客さんとして行こうね!」 「はいはい。またな」 そう言って俺は愛車に乗り込み家に向かって愛車を走らせた。 …。 ……。 ………。 後部座席にクリナーレ、ルーナ、パルカを落ちないように置いて寝かしている。 今日は、はしゃいでいたからなぁ。 グッスリ寝ていやがる。 アンジェラスの奴は俺の頭の上で仰向けになって鼻歌を歌ってた。 機嫌や気分はいいみたいだ。 あ、でもなぁ。 愛車を走らせてる時にふと思った。 そう言えばアンジェラスの奴は文化祭を満足したのだろうか? クリナーレ達や婪に付き纏われて、全然気づいてやれなかった。 ちょっと訊いてみるか。 「なぁ、アンジェラス」 「なんですか?」 「今日、文化祭に来て楽しかったか?お前は奴等に付き合わされて、あんまり遊んでなかったような気がするけど」 核心をストレートに訊いてみた。 ちょっとマズかったかなぁ? 「楽しかったです。ご主人様や婪様にクリナーレ達が陽気に遊んでる光景を見ていて飽きないです」 「う~ん、その『飽きない』発言はちょっと傷つくなぁ」 「大丈夫ですよ。それに私はご主人様と一緒に文化祭に行けた事がなによりも、楽しくて嬉しかったんです」 「…そうか。嬉しい事を言ってくれるじゃないか」 「アンッ!ご主人様、くすぐったいです♪」 俺はハンドルから左手を離してアンジェラスの背中を手の平全体で撫でる。 よかった。 アンジェラスは文化祭を楽しんでくれて。 この武装神姫のアルバイトの終わる期間がいつになるか解からないけど、それまでこいつ等に楽しい思い出沢山作ってやりたいと思った。
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/213.html
『さぁて、皆さんお待ちかね……第一回全国一斉バトルロワイヤル、開催だぁっ!』 ピンクのシャツに赤いスーツを着込み、眼帯をした、丸刈りで髭の中年司会者が絶叫する。 それがフィールド及び全国の中継会場に木霊。観客もそれにつられてヒートアップしていく。 『まずはルールをご説明しましょう。それはシンプル! 戦って……戦ってぇ……戦い抜いてぇ!勝ち残った神姫が…優勝賞金一億円を、手にするのだぁっ! 』 ワァァァァ!と各地のモニタを介してみている観客たちから、歓声が上がっている。 やがてモニターにバトルフィールドの情景と全体マップが映し出される。 情景はランダムパターンで次々と映し出されてゆく。荒野、市街地、水中ete…… 全体マップの方は一言で言えば南海の孤島、といった感じで半円型、もしくは緩い水滴型をしている。 そしてそのマップには木の年輪のような線が入れられている。 『さて、それでは続いて詳細なルールをご説明しましょう。 まず武装神姫たちはこのフィールドの最も外周に当たる、この第一エリアにランダムに配置されます。 その後の移動及び戦闘は自由。戦い生き抜く過酷なサバイバルに挑戦してもらいます。 それと隠れ続けての不戦勝狙いの防止策として、一定時間ごとに第一エリアから順次、進入不可能エリアと変化。 進入不能エリアになった時点で、そのエリアに存在する武装神姫は全て強制失格になるので注意を』 『それではぁ……神姫ファイトォ……!レディ、ゴー!!!』 ねここの飼い方・劇場版 ~六章~ 『ねここ、雪乃ちゃん、アリア、現状位置把握、OK?』 「うん、みさにゃん。ポイントX154Y658だね」 「こちらはX199Y127です、姉さん」 「X101Y352」 私の指揮下の3人より返答が入る。 ゴーストタウンの廃ビルの内部に潜むねここ。森林に潜む雪乃ちゃん。地底洞窟を黙々と進むアリア。 バトルが開始されたと言っても私たちの目的は違う。 まずはみんなと合流しないといけないのだけれど…… 私はヘッドギアの通信チャンネルを切り替えて、全通話モードに切り替える。 『どうですか、皆さんの位置情報をお願いします』 OK,了解と返答が続き、個人用ディスプレイの全体マップ上にメンバーの位置が表示される。 『……結構バラバラに配置されましたね。店長、突入ポイントの特定は出来ましたか?』 『あと10分……いや5分だけくれ。絶対に割り出す。それとジェニー、いやジェネシスの出現ポイントが確定した、そちらは今データを送る』 『了解……データ来ました、第2エリアの中央辺りですね。各員はそのポイントへ移動を開始してください。 それと戦闘は出来る限り避けて戦力の温存を……みんな気をつけて』 みんなの威勢の良い返事が返ってくる、士気は高い。 『あ、それとねここは十兵衛ちゃんとの合流を優先して。 いくら新型ボディで稼働時間が延びてても、今回のような長期戦では不利でしょうから、当初の予定通りねこことドッキングを』 「わかったの。ポイント確認……いきまーすっ☆」 『あ、ちょっと待てぇ!』 言うが早いかビルの屋上まで飛び上がると、一気にブースターを開いて高速移動を開始するねここ。 屋上を足場に連続ジャンプして最短距離を移動するつもりなのだろうけど 「にゃぁぁぁっ!?」 何処に敵がいるかもわからないのに、そんな轟音を立てて空中をすっ飛んで行けば良い標的と思われる訳で。 案の定ビルの陰、柱の角、その他諸々あらゆる所から、数えるのも馬鹿らしくなるほどの火線がねここに襲い掛かる。 冷静に考えればそんな頭上を高速移動中のに撃ったって無駄弾なのだが、この数では万一の事態もあるので馬鹿にはならない。 『あっちゃぁ……こうなったら逆に吹かして振り切って!』 「りょ、りょうかいなのっ!」 ここぞとばかりにフルパワーを出し、一気に振り切りにかかるねここ。 開始から燃料の大量消費は避けたかったけども、やむを得ない……トホホ。 『十兵衛、無理にリミッター解除はするな。初めから負担が大きくちゃ最後まで持たないぞ』 「大丈夫ですよマスター。この程度なら……いけますっ」 竹林を縫う様に駆け抜ける十兵衛。その背後には多数の神姫が迫っている。 隻眼の悪魔の名は非常に有名であり、倒して名を上げようと、また1対多数で早めに強敵を仕留めてしまおうと考えるものが多いらしい。 また十兵衛の弱点として、近接戦闘の勝率が悪いと言う事が広まっており、五月雨式に多数で攻撃を仕掛ければ倒せるのではないかとの予測もあったと言える。 そして十兵衛は目立つ。ストラーフでレーザーライフルを装備しているのも少数派であるし、何よりその眼帯の持つインパクトは絶大といえた。 それら複数の理由のため、十兵衛には像に群がる軍隊アリのように多数の敵が群がってきていた。 最初は薙ぎ払っていた十兵衛だったが、敵数の多さとエネルギー温存の為に離脱に切り替えた。 しかしそれでも尚、結構な数が追尾してきている。 「しつっこいなぁ……もぅ。こうなったら……」 真・十兵衛に人格を切り替え、まだ食い下がる追跡者たちを一気に蹴散らそうと踵を返した瞬間 「に゛ゃぁぁぁああああああああああああ!!!」 ドガァァァァァン!!! と追跡者たちを音速の衝撃波で吹き飛ばすねここ。 ……単に加速しすぎて止まれなくなっただけなのだが…… 「真・十兵衛、覚s………ぇ」 覚醒したはいいものの、辺りには吹き飛ばされて戦闘不能になった神姫たちが転がるだけであった。 「……戻る……」 ちょっと不貞腐れたように元の十兵衛に戻っていく真・十兵衛。 『……何やってるんだか』 凄いんだか、凄くないのだかよく判らないわね、全く。 「な……なんとか合流できたのぉ」 「ありがと♪ 助かったよ、ねここちゃん」 減速しつつ、やっと十兵衛ちゃんの所に辿り着いたねここ。 『二人とも急いで。他の娘はもうポイントに到着しつつあるから』 「わかったの。十兵衛ちゃん落ちないでねっ」 「うん……おもいっきりやっちゃって!」 再びブースターに点火する。二人は他の仲間のいるポイントへ向けて、まっしぐらに加速してゆく。 「おい、何をする気だ! ぅわ!?」 後頭部を鈍器で殴られ、昏倒するスタッフ。ホストコンピュータのあるこの施設は既にその犯人たちに占拠されていた。 ごく一部の部外者は目の前の男のように既に排除済。 「……よし、始めろ」 奥にいたリーダー格らしい男が指示を飛ばす。 「我等の怨み、思い知るが良い……鶴畑、オーナー、武装神姫どもめ……」 ……そして、狂気の祭典の幕が上がる。 『第一エリア、封鎖、3分前。繰り返す、第一エリア……』 合成アナウンスがフィールドに響き渡る。 と同時にセンターなどの現場スタッフが俄かに慌て出す。予定時刻よりも大幅に早い時点でのエリア封鎖なのだ。 「え、何なに?」 「そんなっ!?」 「うそ、まだ早いよっ」 まだ第一エリアに取り残されている神姫達も狼狽する。戦闘を行っていた者も慌てて第二エリアへと移動を開始する。 「ねぇ、エリナちゃん。早く隣のエリアに移らないと失格になっちゃうよ!?」 密林エリアの中、アーンヴァル型の神姫が、隣に佇むハウリン型の神姫にそう呼びかけている。 二人は友人同士、この大会でも最後まで一緒に戦おうと決めていた。 だが合成アナウンスが流れた途端、突然エリナが夢遊病者のような状態になってしまった。 「エリナちゃん!? 早く行こうよ、ねぇどうしちゃったの!?」 肩を掴んで揺さぶるが一切の反応がない。……いや、それに刺激されたのかエリナの顔が上がる。 「エリナちゃん!よかったぁ、さ、早く行こ!?……ぅ……」 彼女がエリナの手を取って駆け出そうとした瞬間、エリナがその手に装備した蓬莱壱式で至近距離から砲撃したのだ。 それは腹部に直撃、巨大な風穴を作り出していた…… そのまま上半身が千切れ、ドサリと崩れ落ちる。 「ど……ぉ……し……」 驚愕の表情が張り付いたまま、涙を流し、半ば消えかかった意識でそれだけを発する彼女。 エリナはそんな彼女へ歩み寄ると、その頭部に蓬莱壱式の銃口を押し当て…… 降り出したスコールの中、辺りには砲声の轟音だけが響き渡っていた…… 暴走の刻が、来たのだ。 そうした小競り合いがあらゆる所で発生。。エリア離脱を図る神姫たちに暴走神姫が襲い掛かったのだ。 離脱に気を取られすぎていたある神姫はあっさりと倒され、なんとか迎撃した神姫にもタイムリミットが迫っていた…… 中には先程のように友人に対して攻撃を躊躇う内に、逆に倒されてしまったケースも多い。 そして……運命の時刻がやってくる。 「ねここちゃん。あれを!」 十兵衛ちゃんが叫ぶ。高速移動しつつも振り返って状況確認をしようとするねここ。 「何……あれ」 第一と第二エリアの境界に強力な電磁バリアが張られ、完全に行き来を不可能にしていた。 「そんなっ! 後一歩だったのにぃ」 目の前でバリアが発生し、移動不能になってしまったマオチャオ。 「あーあ、こんなとこでおしまいか。ちぇー……ぇ」 愚痴りつつ回収されるのを待っている、と、マオチャオの足元から黒い稲妻のようなモノがバチバチと放電してくる。 とっさに回避するマオチャオ、だがソレは着地地点にも発生し…… 「きゃぁぁぁぁぁ!?」 黒い稲妻がマオチャオの全身を犯してゆく。 やがて稲妻が収まると、そこには感情の一切ない神姫、いや只の操り人形がいるだけだった。 「ちょっと待って、何かバリアから出てきます……望遠レンズ倍率拡大、ズームにして各種センサー展開……」 十兵衛ちゃんが神眼を使い、その正体を暴き出す。 『どうだ、何かわかったか?』 「……どうやら暴走神姫みたいです。あの夢遊病者みたいな表情は間違いありません」 『……って事は、始まったのか』 「はい……しかも敵は封鎖エリアに関係なくやってくるみたいですね」 『バリアを抜けてきてるものね……』 事態は一刻を争う状況になってきたみたい、ね…… 「ねここちゃん、合流ポイントへ急ぎましょう!」 「うんっ」 ……舞台の第二幕が上がろうとしている、悪役の次は、ヒーローの出番! そう信じて。 続く トップへ戻る
https://w.atwiki.jp/battle_communication/
武装神姫 BATTLE COMMUNICATION@wikiへようこそ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1228.html
鋼の心 ~Eisen Herz~ フブキ「祝『忍者型MMSフブキ黒い翼ver』発売~❤ これでようやく私の写真が、写真がぁ~❤」 アイゼン「……ま、今回でアンタの出番終わりだけどね……」 フブキ「え?」 アイゼン「……多分次は私の写真。……それも比較的更新は早いと見た」 フブキ「………(ぼーぜん)」 アイゼン「……ふふん(何故か勝ち誇るアイゼンさん)」 Web拍手 WEB拍手を「猫と仔猫(以下略)」のお礼画面に差し替え。 メッセージログにて、WEB拍手へのお返事を行っていました。 著:ALC あらすじ 敷地面積日本最大級のとある神姫センター。 そこで繰り広げられるバトルにはちょっとした特色があって・・・。 多人数参加型のバトルロイヤルを舞台にキワモノ神姫が目白押し。 高校生、島田祐一とストラーフのアイゼンを中心にお楽しみください。 登場人物+登場神姫の紹介 登場神姫の武装紹介 登場神姫の武装紹介(四姉妹編) 登場神姫の武装紹介(その他の神姫編) バトルロイヤルの特別ルールについて 天海市周辺施設紹介 用語集 コラボ大歓迎でした! えっちなのも大歓迎でした。 最新(?)情報 12/20 第35話:ネメシス ここまで来ればゴールは間近。 後一つだけ後日談的な事件が有りますが……。 10/10 第34話:Shuffle! 花の四姉妹乱れ咲k……。 あ、末娘居ない……。 6/3 第33話:Wizard`s Climber 中ボスはまたもやアルアクラン。 如何でもいいけど自分で書いてて アララクランに見える自分は某田村さんのファン。 お品書き 本編(第一部) インターミッション編 本編(第二部) 番外編ぷれころ 武装劇団 その他 コラボ編 18禁編 雑文編 リンク 本編(第一部) 第一話:鋼の悪魔と天使の刃(前編) バトルロイヤルで出会った刀使いのアーンヴァルとそのマスター。彼女らの目的とは・・・? 第二話:鋼の悪魔と天使の刃(後編) 刀使いのアーンヴァル、フェータとの再戦。アイゼンと祐一はどう挑むのか? 第三話:魔弾の射手(前編) フェータを襲う曲射砲撃。ハウリンのセタがバトルロイヤルに参戦!! 第四話:魔弾の射手(後編) セタとの再戦に燃える美空とフェータ。魔弾の射手にどう挑むのか? 第五話:姫と騎士(前編) イギリスからやってきた姫と騎士。その実力が今明らかに!! 第六話:姫と騎士(後編) アイゼンとレライナ。互いに最強装備で挑む戦いの決着は? 第七話:デルタ1 アイゼンに挑むデルタと名乗る神姫。不可解な攻撃に祐一とアイゼンは・・・? 第八話:舞姫と歌姫(前編) フェータとレライナ。凶悪剣士コンビに武装劇団が挑む・・・? 第九話:舞姫と歌姫(後編) 武装劇団に苦戦する剣士コンビ。勝利の鍵は・・・。え、力押し? 第十話:海だ山だ温泉だ(前日) 美空&リーナとデート? キャッキャウフフな日常編その1。 第11話:海だ山だ温泉だ(その1) ナイトライダーとメイド。なぜかそんな出だしで、旅行編の開幕です。 第11話:海だ山だ温泉だ(その2) ぷち水着ショー+海の家。そして埋る村上さん(謎)。 第11話:海だ山だ温泉だ(その3) サンオイルとスイカ割り。そしてまだ埋ってる村上さん(謎)。 第11話:海だ山だ温泉だ(その4) 温泉そしてジェイソン。今度の村上さんはロケットごっこだ(謎)。 第11話:海だ山だ温泉だ(その5) 狂気のカラオケ大会。そして村上さんのロケットごっこその2。 第11話:海だ山だ温泉だ(その6) 温泉で混浴。微エロ注意!?(←エロスはありません、悪しからず)。 第12話:夜の戦場(その1) 総集編っぽい現状確認の回。BBSネタ。 第12話:夜の戦場(その2) 四姉妹とその主。再開と対決へと続く夜の始まり…。 第12話:夜の戦場(その3) 夜の激戦。その一。 第12話:夜の戦場(その4) 夜の激戦。対戦カードが確定…、 第12話:夜の戦場(その5) ……そして、雨の夜の一夜へと続く。 第13話:土方京子 祐一と京子、雨の夜の一時。 インターミッション編 インターミッション01:プロローグ かつて出会ったその場所と、いつか交わした約束と…。 インターミッション02:CSC(その1) 失ったものと遺されたもの。 インターミッション03:原罪 咎の責とその所在。 インターミッション04:芹沢九十九 あるいは、幸せだった最期の日々。 インターミッション05:CSC(その2) 終(つい)に見る夢。終わりの始まり。 インターミッション06:武装神姫 そして、終末へのカウントダウン。 インターミッション07:おしまいの日 死の先を逝き。 インターミッション08:天使は滅びの笛を吹く 絶望から、這い上がり…。 インターミッション09:エピローグ せめて、救われたもの。 本編(第二部) 第14話:ファンタズマ 蘇るもの。 第15話:リ・インフォース 果て無き挑戦。後半での主役メカパワーアップはやはり燃えます。 第16話:史上最大の戦い 予選バトルロイヤル。フェータの前に立ち塞がる意外な『敵』とは? 第17話:クリムゾン・エア 砲撃VS爆撃。ある種の究極に挑むセタ。 第18話:きすみみ 天海最強の神姫、マヤアさん大暴れ。 第19話:メタルジャケット あの人とかこの人が大活躍!? 第20話:CHROMEHOUNDS 大会に挑むアイゼン。相対するは真紅のハウリン。 第21話:夜明けの翼 アイゼンの新たなる力。 第22話:THE SECRET WISH アイゼンとフェータの次なる相手は、それぞれ過去に苦戦をした神姫だった。 第23話:The Maestromusic これで二度目のフェータVSカレン。 第24話:Marionette Handler アイゼンVSデルタ。デルタのとんでもない能力、発動。 第25話:運命の系統樹 アイゼンVSカトレア。最強のライバルと最期の決戦。 第26話:よつのは 四姉妹VSフブキ。 第27話:この晴れた空の下で 託された意思と受け継いだ物。そして舞台は最後の戦場へ……。 第28話:shattered skies ~ソラノカケラ~ アイゼン カトレアのペアによる突入作戦立案。 第29話:フロントミッション タワー最下層での死闘。 第30話:フロントミッション2nd 本編におけるフェータの最終パワーアップ。 アイゼンのパワーアップ方式はサクラ大戦2と同じ方式……。 第31話:THE TOWER 最終ダンジョンの説明他。 案外キャラ多いですな……。 第32話:俺の屍を越えてゆけ 走ることの素晴らしさを文学的に表現してみました(嘘)。 第33話:Wizard`s Climber 最後の作戦会議。 第34話:Shuffle! 四姉妹-1VSアルアクラン×3。 第35話:ネメシス フブキVSアイゼン。 戦術は性能を覆せるか? 番外編 主に癒しとか笑いとかが摂取できるといいなと考えています・・・。 でも、癒し? そんなもの何処にあるんだろう・・・? ぷれころ 神姫と主の出会いの物語。ぷれ、はがねのこころをお楽しみ下さい。 ぷれころ(リーナ編) 孤独なお姫さまと、それを救う騎士のおはなし。 ぷれころ(美空編) 孤独の中に閉じ込められた少女が、その手を外に伸ばすそんなおはなし。 武装劇団 神姫が演じる演劇です。一風変わった物語をお楽しみ下さい。 第一幕:(勧進帳) 第2幕:(シンデレラ) 第3幕:(赤い靴) その他 リセット(ギャグです) 勝てない犬子にリセットの危機? パイソン(ギャグです) パイソンの二つ名を持つ極道のバイオレンスじゃない日常。 ネコドリル(ギャグです) マヤアさん寝床を作るの巻き。むしろポエマーな浅葱さんに萌え? 一撃殺虫マヤアさん(ギャグです) マヤアさんVS黒くてカサカサ動くアレ。勝敗の行方は如何に? パイソン・リターンズ(ギャグです) 赤外線投射機能付武装神姫と暮らす極道の平和な日常。 老兵、稲造(ギャグです) 伊藤組の用心棒、稲造老人とフェータのとある一日? クリスマスの来客(ギャグです) 聖なる夜に下着を漁る村上さんとマヤアさん。何やってんだこいつら。 大晦日の夜(ギャグです) 大晦日、コタツで和む祐一と京子の思い出話?。 伊藤組のとある一日 前編 後編 祐一、伊藤組を訪れるの巻き。 アラカルトチョコ(バレンタインネタ) 新キャラ登場。そして退場。奴はもう二度と出ない。 ネコデート前編 後編 マヤアとデートする祐一の受難。 ばかねこのなく頃に 神姫の仕業か、それとも魔女か!? でも魔女はでてきません。 ばかねこのなく頃に解 正解率100%の謎に挑め!! 予測のつかない超展開に全俺が泣いた!? 闇に咲く花 残虐な描写がありますので、おススメはしません。 このページの他の作品と同じ気分で読まない方が良い事を警告したします。 コラボ編 「犬子さんの土下座ライフ」特別編(コラボです) NEW 犬子さんとマスターさんが天海市遊びに来たら…? そんなお話です。 犬子さんの土下座ライフはコチラ。 18禁編 えろ分を摂取できる、かもしれません。 えろらぶ シリーズ アイゼン×祐一のえろすでらぶらぶなSS。 えろおな(18禁) ※18禁 島田祐一最大の危機。 えろこき(18禁) ※18禁 ストラーフなら、このネタは外せません。 えろきぐ(18禁) ※18禁 ついに『アレ』導入。 雑文編 本編および番外編とも何の関わりも無い雑文です。 バトロン小ネタ集(謎の雑文です) 1分で読めますのでお気軽にお楽しみ下さい。 神姫の構造と戦闘について(謎の雑文です) ALCのメモ晒し、神姫に対するALCの見解に代えて…。 とある三人のオーナーの会話 私の好きな神姫って…? リンク 犬子さんの土下座ライフ。 村上さんが通りすがっていたり、…さらには。 クラブハンド・フォートブラッグ 所々でアイゼンやフェータの影が…。 3Sが斬る! 神の御業か、悪魔の所業か。Sっ娘たちの他愛ないおしゃべりをお楽しみ下さい。 Heart Locate 過去の祐一とアイゼンが出演しております。 鋼の心~Eisen Herz~VS双子神姫~学生同士の大決戦!勿論ポロリはないよ!~ アイゼンVS黒餡。喜久子さまのジオスタ画像付き。 神姫ちゃんは何歳ですか? 國崎技研の商品を一部作品で使用しております。 読者参加企画『武装神姫うきうきバトル』跡地。 今までにお越し下さったオーナー - 人 本日お越し下さったオーナー - 人 昨日お越し下さったオーナー - 人 いずれの皆様にも最上級の感謝を・・・。 ご意見、ご感想、リクエストなど、御座いましたらどうぞお気軽に -- ALC (2007-09-13 01 26 43) 次回脳汁トンネルミッソンですねヒャッハー!!! -- テンチョーの中身 (2009-01-18 00 11 23) >テンチョーの中身さま。 今回は只の侵入口でしたが、意味も無く天海市の地下はトンネルだらけ、と言う設定を出したわけではないですぞ……。 そう、このトンネルが恐るべき戦場に……。なるかも知れない? -- ALC (2009-02-15 22 38 41) 期待している人ノ。ついでに「伊藤組のとある一日」の後編にも期待ノ -- 名無しさん (2009-06-03 10 39 19) ↑ 伊藤組の後編は、実はファイルが消えてしまったのでお蔵入りだったのですが……。……期待してくれる人が一人でも居るなら、ちょっと頑張ってみるッス。 -- 仔猫語(?)が感染った、ALC (2009-06-05 02 17 02) 楽しみにしていた「伊藤組のとある一日(後編)」があったので読んだ。 ……祐一と伊藤組組員の皆さん逃げてぇぇぇっ!! -- 第七スレの6 (2009-08-28 23 21 03) 番外アイゼンの性格がステキすぎです。本編の続き待っています -- にゅう (2011-07-12 23 22 37) 続きを楽しみにしてます -- 名無し (2011-07-13 20 34 09) 名前 コメント メッセージログ - - -
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/466.html
ただでさえ憂鬱な期末試験は、予想通り散々な結果で終わった。僕――星野慎一は、今すぐにでも抹殺したい成績表を持って、家路についていた。 いつからだろう、こんな風になったのは。 昔――といっても数年前だけど――は、決して勉強は苦手ではなかった。学校でも、それなりに友達付き合いがあって、楽しかった。 父が、罪を犯すまでは。 ほんの些細な行き違いから口論になって、相手は父を殴りつけてきた。危険を感じた父は、そこにあった大きな灰皿で、相手の頭を殴打して・・・・・・、殺してしまったらしい。 目撃者が居なかったのが、父にとっての不幸だった。正当防衛ということだったが、近辺では、あることないこと、大小さまざまな噂が飛び交った。・・・・・・その火の粉は、僕達家族にも及んだ。 逃げるように、住み慣れた地を後にした。僕は現在、祖父母の所で暮らしている。 なるべく人の通らないような裏道を歩く。とにかく、人付き合いが恐かった。殺人者の息子だとばれるのが恐かった。 「た・・・・・・す、け・・・・・・」 「えっ?」 なんだ? どこかから、声が聞こえた。慌てて周りを見渡すが、誰も居ない。 「助、け、て・・・・・・」 まただ。怪奇現象かとも思ったが、違った。 僕の足元に、15センチほどの青い髪の少女がいた。・・・・・・我ながら、変な形容だと思う。 そうだ、思い出した。最近色々と話題になっている、武装神姫。でも、そんなのがどうしてここに? 「助けて、くだ、さい・・・・・・」 その時僕は、なぜかこの娘を助ける気になっていた。今にして思えば、彼女が人じゃないから・・・・・・。そんな考えも働いていたのかも知れない。 「ありがとうございました・・・・・・」 彼女は僕の机の上でそう言った。よく見ると、身体には無数の傷がある。 「うん・・・・・・、あ、僕は星野慎一。えっと・・・・・・、とりあえず、よろしく」 「慎一・・・・・・様。私は悪魔型MMSタイプ『ストラーフ』、個体名ネロ、と申します」 ・・・・・・なんて呼べばいいんだろう? 聞いてみたところ、 「ネロ、で結構です、慎一様」 とのことだった。それにしても、 「様付けってのはなんかちょっと照れくさいなあ・・・・・・。僕のことも慎一でいいよ」 これが、僕の運命を大きく変える出会いだった。 幻の物語トップへ